【安倍内閣】日銀新体制発足。デフレ脱却は「財政再建努力が不可欠」の認識を

黒田日銀が始動した。21日の総裁就任記者会見でデフレ脱却に向け「量的質的両面からの金融緩和」「達成期限は2年程度」「あらゆる手段を講じる」と強調、岩田副総裁は「日銀がマネタリーベースを増やすだけでデフレから脱却できる」と語った。財政政策が手詰まりの中、日銀が財政を後押しするという壮大な実験には多くのリスクが伴う。とりあえずは既知のリスクを検討しあらかじめ対応策を考えておくことが肝要だ。

日銀はすでに年間の新規国債発行額以上の国債を毎年市場から購入し、ETF,REITなどでバランスシートを拡大しており、流動性供給の域を超え財政政策の領域に入りつつある。ベースマネーが今や130兆円と2001~06年の量的緩和時を上回り過去最高水準にあるが、消費者物価は前年同月比でゼロ近辺をさまよう。資金供給量がすでに過去最高に達しているにも拘らず日銀の資金供給も民間の消費や投資につながらないのが現状である。
日銀供給ベースマネーは90年代の2倍以上で近年のGDP比は急拡大させた欧米に遜色ない。物価が2倍になっても不思義でない規模のカネが出回っているにも拘らず物価が急上昇しない理由はベースマネーが大量に供給された時期に貨幣乗数=[(銀行預金+現金)/ベースマネー] が大幅に低下していることにある。これは近年の先進国で共通の現象である。貨幣乗数はベースマネーが効率的に貸し出しなどに回ったかを示すもので、乗数の低下は日銀供給の資金が銀行に退蔵していることを示している。日銀当座預金残高は2001~06年は35兆円を維持することを目標にしていたが今は50兆円を超え過去最高の金額でもある。これは企業などの借り手が成長期待が乏しいため資金を借りてまで投資しようとしないということを意味する。ゼロ金利周辺では貨幣数量説は成り立たないということであり、停滞している経済の下では流動性を大量供給するだけでは経済の好転は期待できない可能性が強い。

消費者物価上昇率は好況期の1980年代ですら平均1.3%、過去20年の物価上昇率を考えると2%上昇を目指すには日銀の追加緩和だけでは明らかに力不足といえる。つまり物価上昇率2%は現状で無理なく実現できる物価水準を大きく上回っており成長力強化が伴わなければ市場での金融政策の信用をなくす可能性がある。デフレ脱却のカギは金融緩和で時間を稼ぐうちに政府が構造改革や規制緩和による成長戦略が実を結ぶかどうかである。実体経済が回復し賃金や雇用が上向かないことにはせっかくの市場好転も長くは続かない。加えて財政赤字が膨らむ中で市場の失望を招けば間違いなく長期金利急上昇を招く。
元来、金融緩和は経済主体のリスクテイクを促す方向に作用し行き過ぎれば資産バブルの形成を通して金融システムを不安定にする。近年の金融危機や欧州債務危機を経て金融システム安定への中央銀行の役割は世界的に大きくなっている。日本が持続的経済成長を実現するには日銀が金融システムの内蔵するリスク要因を点検し、政府や市場に説明し金融システム安定という中央銀行としての使命を果たすことを第一に考えなければならない。

日銀新体制は金利の引き下げ余地が乏しいなかで市場への働き掛けを重視する金融政策運営を掲げる。日銀は資金供給量を増やし物価をあげると確約すれば市場参加者の「予想物価上昇率」が高まり企業や家計の行動が変わるという。しかし、市場の期待に働きかけていく金融政策運営は、逆に実物資産の数倍の資産があるといわれる金融市場に振り回される危険性がある。市場の期待は施策効果を先読みする。すでに市場は追加緩和を織り込み、今や長期金利は9年9ヵ月ぶり低水準。長期金利指標となる新発10年債利回りが一時0.558%と2003年来の水準に低下する一方で、期待先行で進んできた円安・株高・債券高への警戒感も強い。すでに国債は価格上昇で収益機会は限界に近く、投資家はより過激な金融緩和を求めるだろうし、外国為替市場では相場の変動幅を大きくして利益を拡大しようとするだろう。為替相場の急激な乱高下は企業業績に不安定をもたらし、政府や日銀政策への不信感を醸成しかねない。既に市場の関心は日銀新体制が打ち出す大胆な緩和の具体策に移っている。
「期待に働きかける金融政策運営」は商品市場や株式・為替などの先行きの政策期待、即ち経済の実需でなく「虚」で動く金融資本市場には確かに効果的である。しかし製品・サービスの価格や賃金など「実需」を軸にした経済は需給関係で決まるから先行きの期待が高まるだけでは企業や家計の行動はさほど変わらないと思われる。量的緩和など大胆な金融緩和策に加えて規制改革などで企業の生産性が向上しないと、経済が本当に強くならない。需要回復に向け供給サイドに働きかける成長政策が経済の効率化のみならず同時に需要を支え合う機能を果たすのである。

既に政策金利はゼロに張り付き後は長期国債などを大量に買い入れるしか緩和手法は残されていないのは確かだ。しかし、これまで以上の積極財政で需要創出するために国債を大量に買い入れざるを得なくなればそれは財政ファイナンスであり好転した市場の動きを反転させる。日銀新体制は市場の期待を上回る金融緩和策で市場関係者が予想する物価上昇率が高まり緩和効果が増すというが、既に緩和期待が盛り上がっているだけに日銀がどんな施策を打ち出しても市場予想の範囲内に収まってしまう恐れがある。そもそも金融政策は将来需要を先取りしているだけで、実需で動く経済効果には限界があるということだ。又、市場からみて望ましいことが長い目で見て経済にのぞましいことと一致するわけではないからその乖離がリスクになる。過去の経験が示すように一度リスクが顕在化すればその影響は大きく長い間持続する。市場や政治の要求は長期的な経済の安定とは必ずしも一致しないだけに日銀はリスクを十分検討すべきであり、金融政策でデフレ脱却を目指すなら短期間での成果が求められる。
話が横道にそれるがクルーグマン氏は4%のインフレを15年継続するという極端な目標を掲げて初めて消費者物価上昇期待を変えることができるという。だが日本の場合、それに伴う金利上昇による国債利払い増加で財政破たんをきたす。
日銀新体制の金融政策でも現在0.5%%程度の消費者物価上昇率を2%にするには時間がかかりそうである。その間の需要喚起のための財政刺激をどうするのか。財政出動を繰り返すと財政依存の悪循環となり財政への持続可能性へ市場は疑念を持つ。市場の期待で上昇した資産価格は政策効果への失望感から元に戻る。事実、01年からの量的緩和導入時は2か月ほど株価上昇がみられたが実体経済の回復遅れが判明すると株価は元に戻りいくらマネーを増やしても市場は無反応になった。市場の期待感にこたえるために何をどう工夫ができるかがカギになる。期待にこたえられなければ、経常収支の悪化で財政の維持可能性を危うくし円安だが株や国債が売られる。そうなると投資家の国債購入を支えてきたデフレ基調の終焉が財政への懸念と合わさってインフレ率以上に金利が上昇する。日銀以外の国債の買い手がなくなり利払増による財政赤字、インフレ率上昇、円安の悪循環に陥る。そもそも財政危機時には日銀が国債を買い続けるしかないが、このようなリスクの防波堤であるはずの日銀独立性に疑問符がついたならばインフレ抑制にも威力を発揮するはずのインフレ目標も尊重されず金利は際限なく上昇するだろう。これを避ける手は政府が中長期的な財政健全化へ努力するしかない。
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