【欧州危機】打開策は古代ギリシャ「ポリス」から学ぶべし

英国の地方議会改選の統一地方選挙で保守党と自由民主党の連立与党は緊縮策への反発から大敗した。欧州ではフランスやギリシャで財政再建を訴えた大統領や政権党が選挙に敗れたのに続き有権者の緊縮財政反対の声が顕在化し始めた。経済成長や雇用拡大のための歳出を説くオランド氏がEUで支持や共感を得はじめている。欧州の安定のためには何をすべきか?

自立した市民が等しい投票権を持つ民主主義がBC4~6世紀の古代ギリシャで誕生した。古代ギリシャは高度の近代社会であり発展の理由は貨幣制度の発達にあった。
「すべての共同体は何らかの善を目的としているが最高の善を最大の努力で目指す最高の共同体がポリス(古代ギリシャ都市アテナイの様な国家共同体)だ」。アリストテレスは著書「政治学」でポリスが最高の共同体であることを示した。ポリスの最小単位は個人でなく「家(夫婦・子供・奴隷で構成)」で人間が生きていくための最小単位。家が集まると村となり、拡大して王国になる。ポリスでは「善く生きる」という目的を他の人間と共有しており、人間が他者と共に「善く生きる」ことを実現するには善き立法と公平な裁判を行う国家的制度が不可欠であり、そのための共同体、それがポリスだという。
古代ギリシャにおいては「経済」とは家の統治、即ち家政を意味する。家政とは家のみならずポリスを含む共同体一般の統治を意味した。家政は共同体一般の自足性実現を目的とするから、ポリスでは生活に必要なものの獲得に関わることが経済活動になる。これを財獲得術と称すならば、共同体が家の段階のときの財獲得術は狩猟、農業など自給自足、村の段階では物々交換、ポリスになると必要に迫られ貨幣が案出された。農民、医者、靴屋の間で交換関係維持のためモノの間の「等価関係」を確立する共通の媒体=貨幣=が不可欠になった。アリストテレスによれば「等しくないから、等しくさせる必要がある」という。貨幣交換の拡大で目的と手段が入れ替わり、本来交換の手段でしかない貨幣そのものを人はほしがるようになる。貨幣でモノを買うにはモノを売って貨幣を手に入れるために「貨幣が交換の出発点であり目的でもある」財獲得術が生まれた。
ポリスのなかの資本主義とは「共同体の中で有用なモノの確保を求める本来の財獲得術に反し、モノの獲得手段にすぎない貨幣それ自体の無限の増縮を求める活動」である。結果として人は「善く生きることでなくただ生きることに熱中する」ようになりポリスの自足性を内部から解体させてしまった。結局、共同体の高度化に不可欠な要素として導入された貨幣がポリスの共同体の秩序を破壊した。

翻って現代。先進国の体制危機は行き過ぎた経済のグローバル化、市場化、金融化の結果だ。金融と財政の複合危機はバブル崩壊と金融危機対応の結果だ。ユーロ危機は金融と財政の規律の緩みが助長した域内経常収支の不均衡拡大であり、効率優先の市場主義が為替を含む価格変動で国民生活を不安定にした上に中間層が痩せる富の偏在と格差拡大の不均衡を生んだ。世界の政治経済が機能しない原因としてグローバル化によって一つの国だけで物事が解決できなくなっていることが大きい。いかに経済を成長させ、国民生活を豊かにし、かつ社会を安定させ、政治的不満が出なくするかが欧州をはじめとする地球規模の課題である。先進国での問題は中間層の厚みがなくなっていることで中間層から落ちこぼれると元に戻れないから経済的不満が政治の不安定につながる。自由と平等のうち平等にしようとしても財政状況が許さなくなっている。一方、新興国では所得格差 が拡大しインフレもあり社会の不満が鬱積している。

なぜこうなったのか?社会の風潮が利益だけを追い求め株主価値の最大化を目的とする市場原理主義が経済成長だけですべてを解決しょうとするからだ。政治も市場価値以外のモノ、正義や平等など家族・コミュニティといった人々の信頼と絆という政治の本質的問題の解決をなおざりにしているからだ。

これらの危機の震源地たるギリシャは4年継続の赤字だが嘗ての危機の時のバルト3国の様に20%に及ぶ経済の落ち込みはなく経常収支赤字もGDP比10%程度でおさまっている。これはECBなどの資金供与のおかげである。ユーロから離脱して自国通貨に戻れば通貨を切り下げて競争力を高める余地は生まれる。だがギリシャの輸出依存度は低い。半面エネルギーなどの輸入価額は上がり、インフレで国民生活は苦しくなりGDP比160%に上る政府債務負担も膨らむ。外貨建て債務負担が急激に増えギリシャ企業の債務不履行はギリシャへの融資残が多いフランスなど世界の金融機関を混乱させ、それが自身に跳ね返ってくることは、ギリシャ国民の80%は理解しているのでは。通貨の安定が失われれば制御不能のインフレになるのは歴史が教える。通貨の安定を支えるのは財政の持続可能性であるから、通貨統合後、価格競争力が低下した国が緊縮財政をとり賃金と物価の統制を行うのは当然の成り行きだ。

話は横道にそれたが、世界をつなげるグローバル化が危機を増幅し広範囲に影響を広げているのが騒ぎを大きくしている原因だ。米国発祥のグローバル化は主に経済的な面で一つの尺度、価値観が世界に浸透していくという意味合いが深く、国家、民族の影を薄めているからだ。ところで欧州生まれのインターナショナルという言葉には各国のダイバーシティーな価値観や主張をお互い認め合って議論し、そこに相手への尊重と妥協点が生まれるイメージがある。たとえば小国に大国と同等に平等な地位を与えることはEUとして非効率。しかしそれが米国的経済効率優先の市場主義に抗するデモクラシー発祥の地、欧州の伝統的価値観ではないだろうか。

今回の欧州危機打開に向けて重要なことは欧州の地域的特徴である社会的な多元性を評価する政策を打ち出すことである。それによって人々が個々の殻から抜け出し家族や個人、近隣、コミュニティなどの公的な組織が嘗てのギリシャのポリスの様に息を吹き返し、そこに暮らす人が確かな絆を感じ相互に責任感を持つ公共の組織が形成されるのではなかろうか。さらに踏み込んで言うならば、グローバルな資本主義には欧州的且つ普遍的な価値観が欠かせないということ。それは個々のコミュニティの価値観や個々の国家の価値観を重要視して、経済活動主体たる市場・企業が、その価値観を学び社会倫理に則り普遍的な考えを統合していくべきなのだ。経済システムが人々の欲求を満たす効率性ではなく、その欲求の内容自体によって倫理的に判断できる様になること、そうでなければ市場自体が持つゲームとしての魔力が騙しや不正申告、共倒れを生み社会が衰退するだろう。

このような観点でみれば、欧州危機脱却を目指すためには、国家、民族の歴史、風習、気質の多元性に応じて財政赤字削減目標をEU全体として一律に与えるのでなく各国の財政状況に応じて個別に与えるべきだろう。同様に、2%のインフレ率も南北欧州の経済格差に応じて指定すべきだ。経済格差の要因の一つは各国のインフレ格差に示され、それは単一の金融政策と財政規律をベースとする通貨統合の矛盾にあるのだから。

この様に考えればメルコジの緊縮財政を強いる方式は悪循環に陥る危険がある。結局は成長力をいかに高めるかがユーロ再生の行方をきめるとするなら、2度にわたる100兆円超す資金供給も危機打開への時間稼ぎにすぎないのみならず、むしろ銀行部門の非効率を温存させる危険性がある。銀行が融資を本格化させるには成長への展望が求められるが成長戦略の旗手はイタリアのモンティ首相。財政再建とあわせて、規制改革、年金改革、労働市場改革を打ち出した。伝統的にEUは政治の意思と専門家の能力をうまくバランスさせ政治の安定を成し遂げている。政治主導のメルコジ体制は危機管理には機能したが財政緊縮1点張りで社会的な多元性の評価に欠ける。市場感覚を生かし長期的視点でユーロを再生させるには政治家の意思と専門家の能力を結集するしかない。専門家の資質を持つリーダーの登場が時代の要請である。
所詮ユーロは未完成であり、欧州危機脱出は今後欧州のリーダーが市民に説明責任を果たし、さらなる改革にまい進できるか否かによるだろう。

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