【安倍内閣誕生⑨】予算編成、少子高齢化対応の産業基盤整備で日本再生を

政府は1月末の臨時閣議で一般会計の規模,政策経費を前年度から減らした2013年度予算案を決定した。政策経費抑制の柱は経済危機対応の予備費の廃止と過去10兆円規模の残高を維持してきた国債整理基金から7兆円の取り崩し、国債の利払い費の想定金利を5年ぶりに2.0%から1.8%に下げて伸びを抑えたことにある。13年度の財政出動は早くも臨界状態だ。
安倍内閣は成長産業創出で成長力を高め税収を増やし財政再建につなげると言いながら、新たな成長戦略を作るのは6月以降である。経産省等(以下、官と記す)は13年度予算案で「製造業の復活」を目指すと意気込んでいたにもかかわらず成長戦略を欠いた13年度予算案から見えるのは省エネ性能の高い半導体先端素材開発を促す新事業などだが予算額が小粒の数十億止まりのモノが多い。中小企業対策は1811億円で12年度並みで、内訳は中小企業の経営相談ネットワークシステムに48億円、消費税の価格転嫁対策に20億円、産学協同の技術開発に119億円。エネルギー関連では再生可能エネルギーの研究開発支援467億円はともかく風力発電の導入促進やエネルギー供給源多角化のための企業への出資、原子力事故からの再生支援など。再生エネルギーや医療への投資は前政権概算要求とたいして変わらず、これでは経済再生の糸口をつかむのにさえ十分とは言えない。十兆円の公共事業の景気押し上げ効果が切れる前に製造業を復活させ、民間投資を呼び込み持続的経済成長に入るには力不足で極めて厳しい。

補正予算の緊急経済対策では設備投資や研究開発を促す減税のほか2000億円の設備投資補助金の創設や海外移転の可能性が高い国内生産拠点を対象にエネルギーや原材料の効率性を高める最新設備を導入にたいする費用の最大半額の補助金など。官はこれらの大型補助金が1兆円を超える民間設備投資の呼び水になると試算するが日本の実質設備投資は12年度67兆円程度であるから、補助金の押し上げ効果は1.5%にすぎない。そもそも補助金は期間限定政策でそれだけでは設備投資復活には力不足だ。官製ファンドを呼び水に民間投資を促すというが、企業の再生という名目で安易に資金が使われ成長力を失った企業を温存する愚行に陥る心配がある。今までも金融円滑化法で返済猶予を受けた企業は全国の中小企業の1割に当たる30~40万社だが、このうち経営が改善しない不良債権予備軍は5~6万社とされる。効果の上がらぬ経済活性化政策の例をもうひとつ。それはエンジェル税制。2008年度の税制改革で拡充されベンチャーへの個人投資分の一定額が課税所得から差し引けるのだが対象企業は設立から3年未満でなければ差し引かれない。対象企業が資金調達の厳しい肝心の3~5年は差し引く対象にならない。さらに課税所得を差し引ける投資金額の上限の問題や複雑な利用手続のせいで利用は毎年100件未満に過ぎないという。ベンチャーの開業率は日本が4%で米国の半分、廃業率も半分以下だ。つまり企業の入れ替わりが少ないのが日本の現状だ。なぜか?一事が万事、制度が投資家の実情とかけ離れていることに起因する使い勝手の悪さが原因だ。

話を本筋に戻す。製造業の復活を目指したはずの13年度予算案が、なぜこのようなその効果が疑わしい予算要求になったのだろうか。それは「企業が成長する環境を整え、民の創意工夫を引き出す」ための戦略・戦術を欠いたまま予算要求をしたからだ。
2013年度予算配分をみると官は「現時点で国際競争力のある」国内の個別産業・技術を支援する姿勢のようであるが、それで成長産業を創出し日本の経済成長力を継続的に高められるのだろうか。嘗て言われた「汎用品は海外で生産、日本で高機能品を作る」というビジネスモデルも通用しなくなりつつあるし、先進国が技術を独占できるという話も、もはや過去の物語になりつつある。例えば自動車関係の電子部品は分解すれば中身は解るから市場で2~3年すれば新興国メーカーに模倣される。先進的技術で市場の優位性を保てる時間は短い。東南アジアやブラジルでは外資系製造業の進出が急拡大し製造現場の人手不足から賃金上昇が著しい。労働コストが安い新興国で製品を作り先進国に輸出する事業モデルも限界点が見える。

こうした日本を取り巻く環境にも拘らず、13年度予算案でみられるような官が過去の産業育成策の延長線上で技術開発や個別企業の資金繰り支援に重きを置いて民間企業に資金を投入するという考え方は時代遅れである。上述のように産業界を取り巻く内外の環境が変わったことを前提に官民の関係の再構築を図ることなくして産業が再生されることはありえない。日本企業停滞の犯人と言われる潜在成長率、これを高める要因のうち少子化で労働力の寄与度はマイナスに、高齢化が進むと貯蓄率が下がり資本ストックの拡大が期待できないなかで日本経済の生産性をあげるには官が企業に自主的なイノベーションを求めるしかない。
産業再生への官の役割は民間企業への資金介入ではなく民に経営改革や新事業、新技術の創発を促す政策である。規制改革はいうまでもないが、規制改革の効果を高めるべく国内の企業基盤の整備に省庁横断で取り組むことだ。言い換えれば少子高齢化という社会構造の変化に対応して産業界の地図を市場対応型に塗り替えることである。
処方箋の一つは、法制度改正で資金と労働力の移動を促し国内で伸びが見込めかつ世界で先進的となりうる国内市場の開発を支援すること。例えば医療・介護、農業の市場。これらはいずれも非効率な労働集約型産業であるが故にコスト高である。資源配分を効率化し現場の自動化などのイノベーションで生産性が引き上げられれば潜在的需要の更なる顕在化が見込まれる。官が民の仕事である市場開発に手を染めなければならない理由は嘗ての高度消費社会におけるプル型のマーケティング思考から民間企業が抜けきれないためだ。財の機能が横並びで供給が飽和状態になった高度成長の末期、供給側の企業は市場創造のため消費者になり替わって消費者ニーズすなわち消費者の欲望を創造しようとして失敗した。発展途上国で日本が遅れを取った最大の理由は供給側の理論で市場に対応しようとしたことだ。
次に大切なことは海外進出企業の知財権や現地での不当な規制等国際的な貿易ルールに抵触する疑いに対して迅速な対応措置を講ずる体制作りである。それらが結果的に企業の経営政策策定の支援になり経営改革や新事業、新技術の創発を促す民間投資に結びつく。

企業基盤の整備には専門性に裏打ちされた官民の目利き力の結集が必要だ。成長企業を育てると同時に収益性の低い企業には経営刷新圧力をかけ新陳代謝を促し、民の投資を呼び込み市場規律を働かせるには個性的かつ多様な価値観を持つ人材が活躍できる場をどのようにして官が提供するかにかかる。そこでは官はあくまで裏方であり省庁の予算獲得に利用してはならない。

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