【安倍内閣誕生⑦】官民共同出資会社創設と成長戦略の整合性を問う

年末の新聞報道によると、成長戦略の一環として政府は電機メーカーなどの競争力強化のため公的資金を活用してリース会社と官民共同出資会社をつくり、1兆円超えの資産買い入れを見込んで補正予算に盛り込むという。狙いは雇用のすそ野が広い電機メーカーなどが「雇用」を維持できなくなると個人消費を下振れさせることへの対策と、過去に投資した資産の「減価償却費負担」の軽減で新たな投資を呼び込むためとのこと。
電機メーカーなどの半導体や液晶パネルは技術進歩が速く既存設備の陳腐化が早い。企業が収益環境悪化でリース資産を買い戻せない場合は損失が発生国民負担になる恐れは十分ある。
そもそも、資産を買い入れリースするのは民間リース会社の仕事だ、財政余力が少ない中で何故政府が出動するのか。まさか、甘利大臣が産業界に甘いからではないだろうが?
電機メーカーのような国際競争に敗れた民間大手企業の再生に際限なく公的資金を使うならばモラルハザートが起き大きな非効率を生む。政府は雇用維持というが、政府に求められるのは特定産業の一時的な雇用維持でなく、日本全体の経済水準を引き上げる対策だ。雇用は企業の対外取引による成長でうまれるものだ。
鉄鋼、自動車、造船など、第二次世界大戦以降競争力を失った英国は、雇用を守るためこれらを国有化した。サッチャー元首相は自伝でこう語る「自由社会において雇用は政府が作りだすものでなく顧客を満足させ得るかどうかによって決まる」。日本同様資源が乏しいにかかわらず経済と福祉を両立させているスウェーデンは「職を守らず人を守る。産業を助成せず、人を助成する」。日本も活発なイノベーションで次々と新規の主要産業を作り出し、それに伴う労働市場の流動性によって雇用を維持すべきで、政府資金はそのためのイノベーション発掘と創出に使うべきである。それが競争の本質を見据えた経済成長政策である。

官民共同出資会社創設と似たような話として政策投資銀行も企業の競争力強化の支援に3000億円ファンドを作り企業の成長を促す出資金を拠出する。支援する企業の規模や業種は問わないでM&Aのほか先端的な設備投資や研究開発向けに長期のリスク資金を供給する。理由は日本の金融機関は融資が中心で元本割れリスクのある出資金の出し手が限られていること、衆議院選の公約に成長戦略の推進策として政策金融の出資機能を強化することを掲げた公約の一環だという。ほかにも、産業支援機構と産業革新機構で事業会社への公的資金注入もある。再生の担い手がいないからと言って無原則に公的資金の注入を継続すればやがてとんでもない非効率を生みだすことになる。

今回の公的資金活用・官民共同出資の対象とみられる電機産業では、シャープは関連部品企業と一体化した垂直統合型経営で生産技術をブラックボックス化した経営モデルを構築したが、水平分業に徹した新興国勢や韓国企業の挟み撃ちにあい、価格下落とサムソンなど海外大手の投資攻勢の前に敗れ去った。一方、三菱電機は、半導体など需要変動の多い事業から重電系など安定成長第一に経営を転換。リスクを回避しつつ研究開発費の減少と償却負担軽減策でリーマンショック後も赤字を免れた。
シャープ、パナソニック、ソニーなど電機産業の大幅赤字企業に共通するのは、短期の業績至上主義に陥り長期を見据えた持続的な経営が二の次になったこと。長期的に見て将来性に乏しい事業の見極めと新しい需要創造の視点に欠けた「部分最適化戦略」という戦略の失敗だ。家電・半導体などの日本勢の業績低迷の原因は円高など「六重苦」と言われる外部環境の悪さだけではない。「メーカー視点の技術開発に走り、顧客目線の欠如でマーケットに受け入れない企業体質」を是正せずに安値競争に走ったのが不振の原因。にもかかわらず、パナソニックはスリム化する組織改革、ソニーはサムソンとの液晶パネル合弁解消、高採算が見込める上級機種に製品数を絞り込むという。中小液晶事業や化学事業売却、人員削減など既存事業モデルのままでコスト削減や製品の入れ替えを目指すようでは対処療法にすぎないから、近い将来次の対策が必要になる。

電機のみならず日本の不振企業の多くは「市場創造」と「技術革新」の失敗が収益減退の原因である場合が多い。

「市場創造」の失敗は「品質さえ良ければ売れる」という20世紀の考えから抜け切れず対象市場が欧米中心だったことが大きい。今のアジアは5,6年前とは様変わりで、可処分所得500~3500$の中間層は20億人に近付きつつある。アジア開発銀行によると50年にアジアのGDPは50年に今年の8倍になり世界の半分以上を占めると予想する。
「技術革新」失敗の理由は、日本の製造業での研究開発の効率が低下したこと。21世紀に入っての付加価値生産性の伸び率は韓国や台湾は日本の5倍前後であり、投資額と企業収益の関係でみると2000年代の投資収益率は1990年代比較で3割低い水準におち、米国やドイツとの比較でも3割低いという調査研究がある。原因は事業の選択と集中の甘さ、戦略のミスである。加えてアジアのライバルメーカーの急成長など日本企業の業績低迷は円高以外の要因も大きい。

電機産業の様なデジタル家電分野では新興国が部品を調達して組み合わせるだけで先進国に遜色ない製品が作れるようになり新規参入のハードルが下がり競争が熾烈である。デジタル家電分野は差異化の余地が小さい。顧客ニーズのきめ細かい情報収集などの面を考えれば日本から輸出するより消費地に立地した方が競争で優位に立てる。国内市場は人口減少で縮小する一方だが、アジアの新興諸国では生活を豊かにする様々な製品需要が拡大している。需要縮小の日本より有望な市場になりうる。一時的に国内雇用を守るため電機メーカーに公的支援をしてまで日本に残す必要なない。設計がしっかりしていれば既存の部品を組みせるだけのモジュラー型のデジタル家電などは海外移転に馴染む。

では、官民共同出資会社は、成長戦略との整合のもとにどのような分野に資金投入するのが望ましいのか。

政府が国内立地のために企業支援するのなら「グローバル時代の日本企業は国内外の2本足で立つ経営」という視点のもとに、グローバルな長期全体最適という考え方に立って国内拠点の強化に努める企業を支援すべきだ。日本に残す企業は、例えばバイオ医薬品・ナノ素材・有機EL・超微細加工品などのハイテク分野のよう「国内の生産性が海外拠点より高く今後も継続維持できる現場」を持つあるいは作る企業を対象とすべきだ。この観点でみれば、競争力を失った国内拠点を新事業・新製品に衣替えさせる狙いとして支援対象にしても良いだろう。事業のカギはコストだけではない。モジュラ―型のデジタル製品は既存部品の組み合わせで設計段階の調整が不要であるが、制約条件が厳しく設計が複雑になる分野の製品を手掛ける事業モデルなら日本に設計の比較優位がある限りは国内立地に意味がある。
もう一つの支援対象の視座は中小企業対策。日本企業が生き残るには拠点当たりの規模拡大が必要だが国内の中小企業は9割が従業員20人以下で拠点が国内に分散しており生産性追求には課題が多い。それゆえに、例えば金型などでは海外進出の日本企業も海外生産・調達が主流になってきた。中国メーカーは簡単な金型なら日本の半値という。金型は定期的な修繕が必要で海外進出日本企業の生産現場近くに金型の生産拠点を作る利点は大きい。これらの中小企業を集約して海外移転を支援する方策も有効である。しかしながら、中国における日本企業は現地で稼いだ金を現地に再投資する割合が他国に比べ高いという。海外で稼いだ利益を日本に還流して国内を潤すモデル、言い換えれば自民党が言うところの「GNPに着目した戦略」は限界かもしれない。

成長戦略における官の役割は日本経済の構造改革に向けて省庁の壁を越えたメリハリのある産業振興策を策定することにある。規制改革や法人実効税率引き下げで民間の力を最大限発揮できる環境整備をおこない、大規模な財政出動をしないで企業の新陳代謝を促しリストラで賃金抑制に頼る企業行動を変えることを狙うべきだ。原燃料費や電力コストが増え企業の生産や投資の阻害条件になるエネルギーと環境税(地球温暖化対策税)をいかにして企業負担を抑制するか。貿易自由化の出遅れなど競争上の不利をいかに改善するか。通商自由化のためには農業改革がカギだ。ならば財政資金の有効利用のため農業改革に大胆な投資を行いTPPへの参加を速めるのも方法だ。TPPをはじめ自由貿易協定を早く結ばないと生産の海外流失がどんどん進み国内生産能力が低下する。

成長戦略成功のカギは、日本の将来、即ち少子高齢化と財政健全化を見据えて、労働人口減少を補って余りあるイノベーションを生み出す投資収益率の高い分野を創生・育成することにある。その分野に政府が重点的に資金を投入できるかどうかだ。人口減の日本であっても産官学が一体となり研究開発投資を進め新規性のある技術を産業化できれば労働供給不足を補い、日本に経済成長をもたらす。特に高齢化により増加が見込まれる医療・介護の効率化に向けての構造改革は急務で「必要なサービスが真に必要な人にいきわたる仕組み」を作り無駄と非効率の労働集約型産業から脱皮して、高齢化に対応した社会システムを構築することは財政健全化と経済成長に極めて有効である。

国際競争力強化に関し円高による価格競争力低下が過度に注目されているが先に述べたように世界市場で勝てる製品を生みだす力の衰えが根源なのだ。過度の円高修正は必要としても、国際競争力を自国通貨安に依存する方策は、企業が過去の成功体験に依存する「ぬるま湯的体質」を温存する極めて危険な考え方だ。企業は外で戦えなければならない時代になったということ。

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この記事へのコメント

2013年01月12日 13:19
なるほど。
社会システム自体がおかしいと、多くの人は気付いていますよね。
でも、それを変えるには、どう努力すればいいのかが、やっぱり難問で…。
人として、人にとって、よりよい社会になるようにと、願わずにはいられません。

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